国民が重み背負うべき2022年12月13日

報道によると、首相は「いま議論しているのは、新たな脅威に対し防衛能力を抜本強化し、日本人の暮らしと命を守り続けるという話だ。責任ある財源を考え、今を生きる国民がみずからの責任としてしっかりその重みを背負って対応すべきものだ」(NHKニュースウェブ)と述べたそうだ。

確かに、国民が現下の国際情勢を「新たな脅威」と捉え、戦力の強化によってこれに対処することを選んだのであれば、まさにその通りだろう。実際、NHKの世論調査(12月9~11日)によれば、防衛力を1.5倍にするという方針について51%が賛成している。しかし、反対も36%いるのである。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を引き合いに出しているが、2022 Military Strength Ranking(完璧な軍事力ならスコアは0になる)によれば、ロシアの軍事力は世界2位(スコア0.0501)、一方のウクライナは22位(0.3266)である。その22位が2位に善戦している。ウクライナに善戦をもたらしているのは、欧米による兵器の支援であり、攻め込まれた側のウクライナ軍や一般国民の士気の高さだろう。対して、攻め込んだ側のロシアを支援する国はごくわずかであり、その理由も「敵の敵は味方」という子供騙しのようなロジック、あるいは「恩を売る」「利益を得る」という即物的な理由によるものだろう。そして、日本の軍事力は世界5位(0.1195)なのだ。戦力の強化が必要だということにはならない。肝腎なのは、世界が支援してくれる国か否かなのである。

軍事力が日本より上位にいるのは米国、ロシア、中国、インドしかないが、そのうち2か国と良好な関係になく、さらにそのうちの1国はウクライナ戦争を仕掛けた張本人であり、もう1国もなかなか強面であり、こちらも領土的野心がありそうだ。したがって,国際情勢に「新たな脅威」があることは確かだろう。

大概の国は自国の戦力を防衛のためと言うが、その隣国には脅威と映る。自衛力であり抑止力であるというのなら、その主張を受け入れて貰えるだけの外交関係がなければならない。ところが、中露との外交関係は憂うべき状態にある。そして、それは政治の責任である。「外交の安倍」がプーチンの掌で踊らされていたのは、ついこの間のことであった。

ウクライナで軍民の士気が高いのは、おそらくは、攻め込まれた側だからだろう。「義は我にあり」の軍は強いのである。しかし、分割統治はよく知られる手法だが、安倍元首相の国葬をはじめとして、昨今は世界的に国民を分断する政治が幅を利かしている。今回の戦力の強化についても3人に1人は反対しているのである。そんな状態で、他国から攻められたとして、果たして一致団結できるだろうか。

かつて日本軍は、国民を守ると言いながら、学徒動員で学生を駆り出し、建物疎開と称して民家を壊し、軍が使うからと言って壕に避難していた民間人を追い出した。自決せよと手榴弾を渡し、敵に見つかるからと泣く子を刺し殺したという。軍は本質的に自立組織であるから、論理が内向きであり、その矛先は容易に反転するのである。DV夫やストーカーの理屈にも似るが、それが軍というものである。政府が「暮らしと命を守」ってやるのだから国民が金を出すのは当然だ、というロジックも、これによく似ている。